†Orion†


「浩平さんは今どこに?」


「……身の回りの物だけまとめて彼女のところに行ったの。このマンションも、すべてあたしたちに譲るって言ってくれたけど……」



がらんとしたリビングを寂しい目で見つめる優菜さん。



「子供と三人で住むには広すぎる」



たった一人、家族が欠けただけ。

この部屋の広さから言って、“広すぎる”という言葉は違うと思った。

けれど、その意味は心理的なものだと俺はすぐに悟った。



「あたしと浩ちゃん、結婚指輪を外した瞬間から夫婦でいることをやめたの。奈緒たちの両親として一緒にいることを選んだの」



優菜さんと浩平さんの、すっきりとした左手の薬指。

夫婦でもある二人が指輪をしていないことに違和感を覚えたことを、今でも俺は忘れてはいない。


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