†Orion†


「だけど……」



それまで、リビングをぼんやり眺めていた優菜さんが俺を見た。



「浩ちゃんは“父親”までもやめてしまった。あたしはあたしで、“母親”でいながらも雅人くんを好きになってしまった」


「………っ……」


「でも、あたしは浩ちゃんのように、自分の気持ちに正直ではいたくない」



優菜さんの瞳から、涙がこぼれる。

一度気を許した涙は次から次へと溢れ出し、優菜さんはそれを手で拭いながら言葉を続けた。



「あたしは“女”である前に、“母親”なんだよ。だから、もしも雅人くんが、まだあたしのことを思ってくれているのなら……」




――……“忘れて”

彼女がそう言ったのは、俺の腕のなかだった。


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