†Orion†


浩平さんが出て行ったあとも、奈緒ちゃんは涙をこぼすことなく、毎日のように笑っているという。


だけど、その笑みが強がりであることを、俺も優菜も痛いくらいに分かっていた。


ほんとうは、声をあげて思い切り泣きたいんじゃないだろうか。

「離婚しないで」「お父さんに会いたい」

そう叫びたいんじゃないだろうか。



夕食を終えて、お袋が後片付けをしているあいだ。

俺は親父とリビングで晩酌をしていた。



「そうかー、いずれは料理長になるのかぁ」


「だから、そう簡単にはなれないって。俺より社歴が長いのに、まだ料理長になれない人もいるんだから」



今日は久しぶりに息子が帰ってきたからなのか。

親父の酒のペースは驚くほどに速い。


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