†Orion†
優菜との結婚話は頓挫したまま、俺は実家を後にした。
実家を出るとき、親父もお袋も結婚のことは一言も口にしなかった。
ただ、兄貴だけが「頑張れよ」と言ってくれた。
「……優菜?」
アパートに帰り着いて、すぐに優菜に電話をする。
彼女には、俺が両親に結婚の話を切り出したことは告げていない。
『おかえりなさい。どうだった? ゆっくりできた?』
「うん、ゆっくりできたよ」
『そう、よかった』
優菜に悟られないように、俺は懸命に明るい声を出す。
両親に反対されたからといって、優菜との結婚を考え直すつもりはない。
兄貴が言ったように、話す時期が早かっただけなんだ。