†Orion†


走ってきた勢いのまま、俺の腕に飛び込んできた優菜を、反射的に抱きしめる。

ただ抱き合うだけで、俺たちはなにも言葉を発しなかった。



いま何かを言ってしまえば、やっとついた決心があっけなく崩れてしまいそうだから。



奈緒ちゃんたちのため。

何度言い聞かせても、俺は、以前のように“やっぱり”だのと思い直して、優菜を求めてしまいそうだから。


無言のまま、そして自然とキスを交わす。

しばしの別れを惜しむかのように、何度も、何度も。


泣きじゃくる優菜に、心のなかで伝える。


別れるんじゃないんだ、俺たちは。

少しのあいだ、離れるだけなんだ。


だからどうか、泣かないで。

いつものように、俺の大好きな笑顔を見せて――……





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