†Orion†
奈緒ちゃんは少し焦ったように、バッグの中から携帯電話を取り出してボタンを押し始める。
「………奈緒ちゃん?」
「……誰も出ない」
それまで明るく振る舞っていた奈緒ちゃんが、急におとなしくなった。
まさか、と思っていたけれど、奈緒ちゃんのナビに従って走らせていくうちに、不安が大きくなっていく。
俺たちと同じ道のりを進んでいく、消防車と救急車……。
そして……
やっと手に入れた幸せは、的中してしまった不安の渦に、じわじわと押しつぶされていく。
「お母さん……っ! さくら……っ!!」
俺が見たものは、業火に包まれている、優菜たちの住むアパートだった。