†Orion†


照れくさくて、俺は目を左右に泳がせながら頭を下げる。



「どういたしまして」



あの日の卵焼きは、みんなが絶賛した。

あっという間になくなってしまったもんだから、午後から休憩に入った料理長の口には一つも入らず、彼は子供のように拗ねていた。



「料理長が食べられなかったんで、またよかったら……」



本当は、料理長のことなんでどうでもいい。


また杉浦さんの卵焼きが食べたくて。

もう一度、共通の話題がしたくて。

俺は偽善者ぶって、卵焼きをまた作ってきてほしいとお願いしてみる。



「あら、そうなの。でも料理長が食べるなんて、緊張するなぁ」


「いやいや、料理長も認める味ですよ、あれは」


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