†Orion†


忠告する杉浦さんの言葉に、ぼんやりとした靄(もや)が一気に晴れる。



「だから、違うんです! 弘美は……」



今度こそ、思い切り否定して誤解を解こう。

そう思ったのに……



「おい、斉藤ー。早く戻ってこい!」



なかなか戻ってこない俺を、厨房から料理長が大きな声で呼ぶ。



「ほら、早く行かないと」



完全に誤解したまま……。

杉浦さんはにこりと笑って小さく手を振り、そのまま休憩室を出て行こうとする。


頭で考え、否定の言葉を口にするよりも早く、俺の手は杉浦さんの腕をぐいと掴んだ。



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