†Orion†
*“優菜さん”*
「……“一番”が休憩で、トイレは“三番”で……」
「……おまえさぁ、講義のあいだはやめろよ」
講義中だというのに、弘美は眉間に皺を寄せながら隠語をブツブツと繰り返している。
弘美が机の上に広げているのは、バイトで覚えたことを記したメモ帳。
いま必要な教科書やノートは、机の隅に追いやられている。
「早く覚えないと、足手まといになっちゃう」
その気持ちは分かるけどさ。
新人の力量なんて、みんな理解してるって。
「あ……ねぇ、雅人」
メモ帳から視線を外した弘美が、思い出したように口を開いた。
「あの人……名前なんだったっけ……」