†Orion†
「あの人?」
いきなり訊かれても、誰のことを言っているのか分からない。
首を傾げる俺に、弘美は自分の記憶をたどるようにして訊いた。
「ほら、あの人……。あたしが面接の日に会った人」
「……主婦の人?」
「そうそう。あんたの好きな人よ」
もうすっかり、確定してしまっている。
ここで、“違う”“そうでしょ”の押し問答ができるわけもなく。
俺はスルーして、その名前を口にした。
「杉浦さん」
「杉浦さんかぁ……。あたし、今度の土曜日、その人に付くことになってるんだよね」
「はあ!?」