†Orion†


――土曜日の朝。

開店までの一時間を、俺は彼女と二人きりで過ごす。



「おはようございます」



いつも先に店に来ているのは杉浦さんで、寝ぼけ眼で出勤する俺に笑顔で挨拶をしてくれる。

その優しい笑顔に、俺の目は一気に覚める。



「……おはようございます」



素っ気無く挨拶を返したあと、俺は逃げるようにして更衣室に駆け込んだ。


コックコートに着替えながら、自分の心臓が破裂してしまいそうなくらいドキドキしているのを感じる。



挨拶を交わすだけで、こんなにもドキドキしているのに。

杉浦さんのいるホールで仕事するなんて、絶対に無理だ。

彼女と同じ勤務時間は土曜日だけで、そう頻繁にはないだろうけど。



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