おかえりなさい(更新停止)
田舎・中学生
 
何がきっかけだったのか。

あの日のことを昔話にできたのも、今では平気な俺がいたからだろう。


「それってさ、お前の母ちゃんが家の中から言ったのを勘違いしただけだろ。」

「いーや。あれは絶対アイツが喋ったね、おっさんみたいな声してたし。」

「まあ子供は幽霊とか見えやすいって言うからな。お前もしかして今でも溝恐怖症とかだったり?」

「んなわけねえだろ。それに幽霊っていうか、アレはただの虫だぞ…」

その虫の存在が…




今になって気になりはじめた。




あの頃よりは腕っ節に自信がある。

もっとも、それだけが原因で開けなかった訳でもないが…


溝に手を掛けても恐怖心はなかった。

それよりも懐かしさと、あっけなく持ち上がった石畳の重さに長い歳月を感じた。




「………カピカピだ。」




その何処かに目ん玉が潜んでいるのか探すまでもなかった。

干からびたか、あるいは棲家を変えた。

どちらにせよ幼い頃に観察していた溝とはまるで違う場所だった。


今ならあの虫の名前くらい簡単に割り出せそうだが、そうする理由もなかった。

興味すら湧かなかった。
 
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