おかえりなさい(更新停止)
玄関の扉の音に反応したのか。
俺は久しぶりにソイツの声を聞いた。
「おかえり。」
懐かしく思えたその響き。
まだ俺達が家族をやっていた頃は、当たり前のように飛び交っていたその台詞。
「……ただいま。」
思いの外、素直に返せた。
それと同時に──
「どうかしたの?」
率直な疑問が口をつく。
「別に。何かないと話しかけたらいけないの?」
「……いや」
「ちょっといい、話があるの」
やはり読みは的中した。
同じ住居での最低限の接触を除いて
ましてや面と向かうのは久しいことだ。
「何?」
久々に入った部屋の印象は、かつてと変わらないままだった。
単純に忘れてしまったとも言える。
「……お父さんと会ってきたわ」
「何か言ってた、親父」
「家のこと」
「…………」
「話してきたわ。」
遠回しの物言いは……
一つの家庭の終着を報せていた。