紫黒の瞬き
部屋から出るとアサガはいつもの様に、女の回復の具合を聞いてきた。
アサガに目を覚ました事を教えると、安心したように顔を緩める。

「じゃあこれ薬。」

あの川原から女を連れ帰った時こそ、訝しげにしていたアサガだったが、今ではそんな様子微塵も感じさせない。

薬袋を受け取った俺に、アサガはニヤッと笑う。

「お前が他人に興味を示すの、珍しいな。」

「……………」

「何か食べさせてから、その薬飲ませてやれよ。」

じゃあな。そう言ってアサガは出て行った。

手に持っていた薬袋をテーブルの上にぽんっと投げ置き、暖炉に火を点す。
もうすぐ日が沈む。茜色の陽光が部屋の中に差し込み、部屋中を橙色に染めていた。

パチパチと音を立てだした炎を見ていると思い出す。
冷たく冷え切った身体。小さな身体は夜の冷気と川の水、失った血液の為にその温もりを取り戻すのに時間がかかった。

尚も体温を奪い取る濡れた着衣を渇いた物と変え、毛布で包むと自分の胸に抱き、暖炉の前に連れて行った。

夜通し暖炉の前で身体を温めてやると、日が昇る頃には薄っすらと頬に色が差してきた。
それでも指先はまだ冷たかったが、温もりを取り戻してきた事に安堵する。

毛布に包んだままベッドに寝かし回復を待つことにしたのだ。

何故だか分からないが、あのまま命の灯火が消えてしまうことが許せなかった。






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