紫黒の瞬き
こちらからはやり返す事なく只管打たれ続けるのにも限界があり、拳と蹴りを受け続けた腕が痺れてきたところで、向かって来る小さな身体を跳ね飛ばした。

体制を崩し、呆気なく地面に倒れた女。俺はすかさず腹の上に馬乗りになって手首を掴んだ。

「何に怯えている?」

なおも脚をばたつかせ、両腕に力を込める女に訊く。

「……………」

俺を睨み付ける眼は何かに怯える眼だと思った。
憂いを孕んだ薄い茶色の瞳は微かに揺れている。陽の下で見るそれは室内で見るのと少し違って見えた。

何も応えはしないが逃れるのを諦めたのか、俺の下にある身体からは力が抜けつつあった。
心配そうに見上げる目に思わず掌を伸ばす。そして頬に触れた。

女はその掌に一瞬ビクッと身体を震わすが
「心配するな。危害を加えたりはしない。」
そう言うと完全に身体の力が抜け切った。






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