紫黒の瞬き
『心配するな。』その言葉で私は身体の力を抜いた。
私の攻撃を受けるばかりで、打ち返す事はしなかった男に疑問を抱く。

「どうして…」

私の口から出たのは酷く掠れたものだった。
その問いに「何がだ?」そう返す男は、立ち上がり拘束されていた私の身体は自由になる。

私は身体を起こし、ジンジンとする手首を無意識のうちに摩っていた。
視線を手首に落とすと右の手首は赤く痣になり、左は閉じかけていた傷が開いたのか、巻きつけている布に赤く血が染み出ていた。

「悪かった…」

申し訳なさそうに男に謝られるが、なんだかそれがとても可笑しかった。
私よりも男の方が負った傷は多いはずなのに。
あれだけ一方的にやられたも、顔を顰めることはなかったのだ。

「傷の手当てするから、家へ戻るぞ。」

促されるまま、私は男の後を付いて歩いた。





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