紫黒の瞬き
逃げるのに必死だった為さっきは周りを見ることもしなかったが、陽が昇りそして落ち着きを取り戻した私は周りの様子を伺った。

周りは森に囲まれ、あるのは男の家と少し離れた所に同じ様な家が一つあるだけだった。
他には何もない。
森の方を見渡しても獣道が辛うじて分かるぐらいで、人間が通る為の道さえも無いように思う。

ここに、この男は一人で暮らしているのだろうか…

部屋に戻ってまずした事はやはり傷の手当てで、男は前回と同じ様に手際よく進める。
右手首には湿布を張ってくれて、左の手首の布を外した時には「痛むか?」と声を掛けられた。

その言葉に首を横に振る私を見て顔を緩めると、薬を塗って布を巻き直した。

「ごめんなさい。」

突然の私の言葉に男は首を傾げる。
「それ…」と男の袖口から見える腕の痣を指して言った。
すでに赤黒くなっている打撲痕。私が執拗に打った後だった。





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