紫黒の瞬き
そんな目の前の男に思わず目を見開くがその掌に悪意は感じられない。
身体が粟立つぐらい不快ではあったが、矢鱈と動く事も出来ずに堪えていた。

「アサガ、止めろ。」

その不快な掌を止めてくれたのは、やっぱりこの男のものだった。
睨み付けるような目でその行動を制する。

「そんな目で見るなよ。触診だよ、触診。」

アサガと呼ばれた男は最後に左手首をそっと掴んで目視すると、椅子に座る私に目線を合わせるように腰を屈めた。

じっと目を覗き込むとにっこりと微笑み「すっかりよくなったみたいだな。」と言う。
ただそれは私へ向けた言葉ではなく、私の後ろに立っている男へ向けられたものだった。

「ジン。」

アサガは男のことをそう読んだ。
私を捉えていた目が今度は男を捕らえる。その動きと同じ様に私も少し振り返った。

「なんだ?」

「朝飯。もう食ったのか?」

こう言った二人の会話は日常から交わされているものなのだろう。
不自然さは全く感じられず、とても自然な会話に私の心は一層安定する。





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