紫黒の瞬き
逃されたこの身。
母が案じたのは、葬られる事かそれとも囲われる事なのか。

どの道この身体ではもう逃げることも出来ない。
今襲われれば抵抗する事も出来ないだろう。

水際まで重い身体を引きずって行き、一つの大きな岩に凭れかかった。
そのまま力無く腰を下ろすとパシャンと水音がする。

真っ暗な水面。音も無く緩やかに流れるそれは、私の苦痛も一緒に流れてくれるような気がした。

足を浸ければ数分で感覚が無くなるぐらいに冷たい水。
大きな岩に凭れて足を投げ出している私は腰までその水に浸かりながら、下半身から苦痛が流れ出すような感覚に陥っていた。

月のない夜空を見上げ、腰紐に挿している短刀を掴んだ。

お母さん。ごめんね。
他人にどうにかされるぐらいなら、私は自分で…

鞘から抜き、冷水ですっかり感覚のなくなった左手首にその刃を当てる。
力を入れずともその鋭利な刃は薄い皮膚を裂き、川の水とは対照的な暖かい液体を溢れさせる。

短刀が掌から抜け落ちると、自分が身に着けているたった一つの輝く物。それは紫の石の付いた首飾りだけになった。
紫の石を握り、残った僅かな力を込めて引っ張るとプチンと音がして切れる。






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