紫黒の瞬き
松明の明かりによって、その姿がはっきりと見て取れる。

血の気を失った白い顔には、小さな擦り傷が沢山ついていた。
だらりと下ろした細い腕。左手首からは深紅の体液が流れ出し、その辺りの砂利を黒く染めている。
その血液は砂利だけに留まらず、川へも流れていた。

「やばいんじゃないか?」

その小さな身体を水から引き上げ川原に横たえる俺にアサガが言うが、そんな事は俺にも分かっていた。

夜の冷気と冷たい水。
一晩それに晒されただけでも相当体力が奪われる。
それどころか、相当な量の血液を失っている。
手首の傷はそれ程深い物ではないようだが、今この命の灯火を消すのには十分な物だった。

俺は冷気避けに肩から巻きつけている大判の布を脱ぎ、その小さな身体を包み込む。
相変わらずジワジワと血液の湧き出る手首には、裂いた薄手の布をきつく縛った。

「連れて行くのか?」

アサガの問いかけに「ああ。」と一言だけ返し、小さな身体を荷物の様に肩に担ぎ上げた。





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