【短】ふたりぼっちの乾杯
ふたりぼっちの乾杯
わたしだけが知っていることがあるの。
例えば、あなたは帰ってすぐに靴下を脱ぐ。
それからブレザーを脱いで、ネクタイを緩める。
いつも、毎日、同じ。
今日も同じ。
靴下を脱いで、ブレザーを脱いで、ネクタイを緩める。
それから小さなソファに身体を沈めるあなたを見て、わたしは口をぱくぱくとさせた。
「あぁ、……ったく、そう急かすなって」
水槽の脇にある箱を手に取って、あなたは笑う。
少し、眉を下げて。
目を細めたあなたの笑顔が好き。
よく見ると、ほっぺに小さくえくぼができる。
黒縁の眼鏡のむこうで柔らかくあなたの目が笑う。