【短】ふたりぼっちの乾杯
『金魚すくい? 子供じゃねーんだから』
『一人で暮らしてるとさ、家に帰ってきたとき誰もいないんだ。当たり前だけどさ、それがちょっと寂しくて』
あなたに初めて出会ったあの日。
そう言ってあなたは、わたしを捕まえた。
眉を下げて、少し困ったように笑ったあなたの顔が、とても心に残ったの。
そのあなたの顔を見ていて逃げられなかったわたしひとりを、あなたはすくいあげた。
『おじさぁん、一匹だけでいいや。ちょうだい』
まだすくおうと思えばできたはずなのに、わたしの入った小さなボウルを持ってあなたは店の人を呼んだ。
わたしだけが、あなたに選ばれた。
『今日からお前は、なっちゃんな。オレンジのなっちゃん』