OTOGI Rock'n'rool
「おれ、馬鹿だしさ、空気とか全然読めないし
日本語もあやふやだから言葉でうまく伝えることもできなくて、でも、だから、おれだからこそ伝えられる方法があって
…おいら音痴だけど、ちゃんと歌うから聞いてて」
一呼吸置いて、真崎くんは言った。
「聞いて下さい、おいらの自信作"OTOGI Rock'n'roll"」
真崎くんが歌のタイトルを言った瞬間、私はまた走り出していた。
歌いはじめの3秒後、予想通り放送のスイッチは切られた。
真崎くん、私に伝えたいことってなに?
私も、伝えたいことがあるよ
歌の続きをはやく聞きたくて、私はとにかく体育館へ走った。
体育館の前まで来ると、ゾロゾロと中から人が出てくる。
私はその流れに逆らって、必死に前に進んだ。
やっとの思いで中に入ると、あの時と同じ、観客は私一人だった。
「あ…」
真崎くんは私に気付くと、歌うのをやめた。
「あ、続けてっ!!!」
今度は一番前の特等席。
じっと真崎くんの顔を見ると、真崎くんは照れながらにひっと笑った。
「じゃあ、最初から」
体育館いっぱいに響くギターの音、でたらめな歌声がすーっと耳に入ってきた。