まえがみ


「佳乃、移動教室だよ!」


エリに呼ばれて気がつく、ぼーっとしがちな毎日。


隣の席の人とも入学してから一度も会話をしていなければ、班の人とも話をしていない。


話をしていないというよりかは、話ができない。


「そうだね…行こう。」


小学校の時とは比べものにならない量の教科書と筆記用具を抱え、あたしは席を立った。



移動中、廊下を一緒にあるクエリは、社交的だから誰とでも手を振り合って仲良さげにしていた。


「エリは良いなあ…。」


「…え?何が?」


そう聞いてくる彼女は、学校生活の楽しさを知っている表情をしていた。



「誰とでも会話できて、良いなあって。」


「大丈夫だよ~。佳乃も元気に行けば良いんだよッ。」


肩を組まれ、とんとんと叩かれる。


そうだよね…そうだよね…。
元気に行けば良いんだよね…。

でも…。でも…。




どうしても、怖さが襲ってくるんだ。

< 10 / 42 >

この作品をシェア

pagetop