空と海の絵かき歌
海からの帰り道。
晴天が照れくさそうに教えてくれたことがあった。
「美術室の絵あるじゃろ?」
「朝焼けの海の絵?」
こんな風に晴天と手を繋いで、砂浜を歩くのなんて何年ぶりだろ。
不意に見上げた晴天の顔は、じっと空を見上げていた。
「あの景色、覚えとる?」
「うん……何回も見たからね」
忘れるはずがない。
夜空と朝焼けが入り混じったあの風景。
わたしたちが育ったこの町の海と空の景色だ。
「海汐が町を出た日の夜空。……浜からずっと見上げとった」
父親の転勤で町を出たのは、今から四年前。
生まれてからずっと隣に居た晴天と、初めて離れ離れになった夜。
「……帰ってくるんか?」
町を出る為に車に乗ろうとしたわたしの服を掴み、いつになく真剣な顔をした晴天にただ一度だけ。
深く頷いたのを覚えている。
「あの日から夜空が頭ん中から消えんくなって、絵が描けんくなった」
繋いでいた手が一瞬、ギュッと締め付けられ、
「ちゃんと帰って来たでしょ?」
思わずその手を握り返した。