空と海の絵かき歌

海からの帰り道。

晴天が照れくさそうに教えてくれたことがあった。



「美術室の絵あるじゃろ?」


「朝焼けの海の絵?」



こんな風に晴天と手を繋いで、砂浜を歩くのなんて何年ぶりだろ。


不意に見上げた晴天の顔は、じっと空を見上げていた。



「あの景色、覚えとる?」


「うん……何回も見たからね」



忘れるはずがない。
夜空と朝焼けが入り混じったあの風景。

わたしたちが育ったこの町の海と空の景色だ。



「海汐が町を出た日の夜空。……浜からずっと見上げとった」



父親の転勤で町を出たのは、今から四年前。



生まれてからずっと隣に居た晴天と、初めて離れ離れになった夜。



「……帰ってくるんか?」



町を出る為に車に乗ろうとしたわたしの服を掴み、いつになく真剣な顔をした晴天にただ一度だけ。


深く頷いたのを覚えている。



「あの日から夜空が頭ん中から消えんくなって、絵が描けんくなった」



繋いでいた手が一瞬、ギュッと締め付けられ、



「ちゃんと帰って来たでしょ?」



思わずその手を握り返した。
< 29 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop