空と海の絵かき歌
行かないで。
なんて絶対に言えないし、言う気もない。
笑顔で、いってらっしゃいって両手振って送り出してあげる。
って、ここに来るまでは自信満々で思ってたのに……。
「海汐の泣き虫はいつになったら治るんじゃ?」
眼鏡の隙間から零れ落ちる涙を指で掬って、晴天はまた困った顔で笑ってる。
「ほらっ」
差し出されたスケッチブックを捲れば、描きかけだったあの絵が完成していた。
キラキラ光る海の色と、砂浜に映る二つの影。
手を繋いで寄り添う影は、まるであの時のわたしたちみたいだ。
「あと、これもやる」
濡れたまんまの手のひらに置かれた二つのリングに、顔を上げれば晴天はニッと笑ってる
「じじぃと死んだばぁさんが付けてたヤツ、じじぃが海汐に渡せって」
大きさの違うリングを握り締めた手に晴天の小指が絡み、
「じじぃが海汐の花嫁姿を見るまで死ねんって」
「へっ? っ」
軽く触れた唇の感触がスイッチになって、心臓がバクバク鳴り始めた。