サクラ
高校は進路や知能の兼ね合い(主に知能的な意味で)で、違う高校にした。
受験勉強中はなかなか会えなかったりしたけれど、寂しく感じる事は無かった。
何故なら、毎日10分の電話と、お互いに送り合ったお守りがあったから。
そのお陰もあってか、二人共見事第一志望に合格した。
二人が出会って、何度目かの春が来た。
高校に入って直ぐに、夜桜がライトアップされているらしいと同級生から聞いた彼が、見に行こうと誘ってきた。
親の許可は出ないだろうと踏んだ私は、内緒で家を抜け出した。
彼は青い自転車の後ろに私を乗せて、桜並木まで連れて行ってくれた。
「美夜って美しい夜って書くんだよね」
「うん、そうだよ」
「じゃあ今日は美しい夜に出会えた日だ」
付き合ってから丁度、2年が過ぎようとしていた。
まだ肌寒い風が時折体を冷やすけれど、繋いだ手から伝わる熱があれば不思議と寒さを感じなかった。
「ロマンチスト王子、それは天然ですか?」
「本当の事を言ったまでだって」
「ふふっ…」
ライトの光に影を落としながらちらちらと舞う桜は、幻想的な雰囲気を醸していた。
私達はその美しさのあまり、段々と無言になって酔いしれる。
また、来年も、再来年も、その次の年も。
私がおばさんになっても、おばあちゃんになっても。
私達はきっと、毎年此所に桜を見に来るのだろう。
もしかしたら、お互いに悪態をつくようになるかもしれない。
それも、ありかもしれないと思った。
「約束して欲しいんだ」
「ん?」
「例え喧嘩したって、体が悪くなったって。毎年ここに桜を見に来ようね」
「……そうだな」
彼は笑って、私の頭を撫でる。
「その為にも、渡したい物があるから。覚えておいて?」
私はとりあえず、こくりと頷く。
彼は満足そうに笑った。