サクラ

 医師や警察の人が言う言葉が、呪文の様に聞こえてくる。

 彼は即死だったそうだ。

 車の運転手は現場に居合わせたおばさんがナンバープレートの番号を覚えていたのもあって、早々に捕まった。
 運転手は泥酔状態で運転をしていたらしい。
 未だ、酒気帯び運転について厳しく取締りが行われていない時代だった。


 冷暗所で見た彼は冷たくて、硬かった。

 私は一度も泣かなかった。
 彼の葬式でも、火葬の時でも。

 彼のお母さんは私を責めたりしなかった。寧ろ、息子を最後まで愛してくれて有り難うと。そう言ってくれた。

 何もかもが終わって、彼のお墓が出来て、墓参りに行ったときに。
 私の何かが崩れた。

 私は墓参りが終わって車に戻る最中からの記憶が無い。

 気付いたら病院のベッドで寝ていた。
 目覚めた私は、彼の記憶だけがすっぽりと抜け落ちていたのだった。



< 15 / 24 >

この作品をシェア

pagetop