サクラ
──トゥルルル。
ワンコールで音はブツッ、と途切れた。
「もしもし、美咲?」
呼びかけても返事が無い。再度呼びかけようと彼女の名前を呼ぶために口を開いた、その瞬間。
「こん……のバカ美夜!!」
……キーン、と。
電話でこんなに耳が痛くなれるのだと、半ば関心してしまえる程の大音量だった。
「……ごめん」
「連絡くらいしようよ! 何の為の携帯? アンタはおとんか!?」
「すみません……」
「………」
「……ごめん」
「呆れて物がいえないって、まさにこういうことを言うんだね……」
謝るしか出来ない私に不甲斐なさを感じたが、謝るしか出来なかった。
そして私は、蒼井の事も伝えなければいけない。
「あの、蒼井の事なんだけど」
「……まさか思い出したの?」
「うん」
「………だから、遅れたの?」
「うーん……違うような違わないような」
「発作とかは、起こしてないみたいだね。……そっか、思い出したんだ」
「……うん」
蒼井と会った、なんて言っても信じられないだろうから、伏せておく事にした。
「思い出して、今まで何してたの?」
「……桜見てたんだ。蒼井が桜、好きだったから」
「そう。……で、今どこにいるの?」
「映画館……です」
「今から行くから待ってて。23:00上映のなら見れるから見よう」
「……でも」
「席取っておいてよ? 勿論、奢ってくれるでしょう? それなら、今回は許す!」
「美咲ぃ……」
涙声になっていく私の声を聞いて、彼女は電話の向こうでハハ、と笑っていた。
「泣かないの! 話は映画後で沢山聞くから。今日は私の家にお泊まり決定ね? じゃ、一旦電話切るから」
「……うん」
プツッと電話が切られてから、私も通話を終了させて涙を拭いて映画館へと入った。