サクラ
霊園で蒼井のフルネームが記された墓は、すぐ見つかった。
まだ真新しくて、手入れがきちんとされていた。私は持ってきた花を、見栄えが悪くならない程度に元あった花の間に入れる。
蒼井のお墓の横には桜の木が立っていて、蒼井のお墓を桃色にしていた。
「あはは、桜だらけ」
私は手で墓石の上に乗った桜を払ってから、手桶で汲んできた水を柄杓で上からかける。
「……遅くなってごめんね」
私が笑っても、勿論彼がもう笑う事は無い。
私は手を合わせて、また来るね、とだけ心の中で言ってから、目を開ける。
──ザアアアッ。
一際強い風が吹いて、桜の花びらを舞い上げていく。
蒼井が待ってるよ、って言ってくれているみたいだった。
手を繋いだり、触れあったりする事は出来ないけれど、一緒に桜を見ることは出来る。
そう思ったら少しだけ嬉しかった。
手桶を持ってからバイバイ、と彼に手を降って歩き出す。
来年も、再来年も、その次の年も。
また一緒に、桜を見よう。
END