サクラ
頭がぼんやりとしてきて、青から視線を反らしたその一瞬で、青は居なくなっていた。
「……何で」
道は一直線で、曲がり角も、隠れられる所も無い。まるで最初から何も無かったかの様に、青は消えていたのだ。
「嫌……ッ」
口に出して、不思議に思う。
何故、嫌だと感じてしまったのだろう。
自転車を止めたまま自問自答を繰り返す私の耳に、"こっちだよ"と、懐かくて心地好くて、大声で泣き出したくなる様な、そんな声が聞こえた。
声がしたであろう方角を見れば、"青"は再び私の目の前に姿を現していた。
「戻ってきてくれたの……?」
"青"は何も答えずに、静止したままだ。
ただ、この沈黙に不似合いな、ぴよ・ぴよ・ぴよ、と間抜けな音がしていて、私は初めて信号があった事に気付いた。
「……信号」
ただの信号待ちか。と安堵したのやら、ガッカリしたのやら。
何だか、複雑な気分だった。