桜の木の下で…


女が眼を凝らすように、こちらを見つめている。
闇の中に潜む外敵をみつけようと必死の形相をしているであろうことが気配で伝わってくる。


見つかれば終わり。
殺される…


一歩…また一歩と近づいてくる女。

逃げろ。今すぐに。
顔は見られていないはず。
今なら助かる。

さぁ、走れっ!!

無理矢理、脳から身体に指令を出す。
それに従うように身体は弾かれたように走り出した。それは脱兎の如く。

心を置き去りにして。
ただ助かる為に。
思考はもう考えることを拒否している。

脚だけがただ機械的に前へ前へと繰り出される。

走って走って、走り続けた。
無我夢中で。


気がついた時には、どれほど走ったのかもわからなくなっていた。
肺が酸素を求める。
それに従い肩を大きく上下させて酸素を吸い込む。

今、見たのは悪夢…
それ以外の何ものでもない。


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