桜の木の下で…


翌日のニュースで女性アナウンサーが淡々と読み上げていた事件の内容。

先日、失踪した女性の持ち物がどこかで見つかったらしい。
それによって事件に巻き込まれた可能性が高くなり、警察が周辺を捜索していると。

その女性の写真に息を呑んだ。

あの横たわったまま、微動だにしない女性。
恐怖のまま固まった顔。
見開いた眼と、視線が交わった。もちろんそれは錯覚。

確証などない。
あれほど崩れた顔とテレビに映し出された写真の中の綺麗に微笑む女性が同一人物だと確信など持てようはずがない。


―他言無用―


あの声が脳裏を掠める。
あの声は本当に好奇心などという人の感情だったのだろうか。

いや、今はそんなことどうでもいい。
それよりもあの女に再び関わるのは絶対に嫌だと本能的に全身全霊で訴えている。
もしあの女に知れれば、次は自分があの桜の木の下に埋められかねない。
絶対に嫌だ。


あの時、本当に顔を見られていなかっただろうか?
本当に追いつかれていなかっただろうか?
いつかあの女が目の前に現れるのではないだろうか?


そんな考えばかりが頭の中を徘徊している。
食欲がない。
一睡もしていないのに、眼が冴える。
咽がからからに乾燥している。

恐怖に押し潰されそうだ。


もう二度と桜を見たくない…

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