遥か遠く
「歳を教えてください」
男は下を向きながら、紙に何かを書いている。
“エンドウアカリ…”
紙を覗き込むと確かにそう書いてあった。
「19です。 えっと…、基本的なことを聞くんですけど、どなたが店長なんですか?」
自分でもこんなことを聞くのは恥ずかしかったが、でも真相を確かめたかった。
男は顔を上げ、首を傾げる。
「僕です。僕が店長だよ」
…じゃあ、さっきの男は?
ひとつの疑問が浮かび上がり、状況が理解できない。
「どうしました?」
「なんでもないです」

**

「あー!ムカつく…」
私は注文したアイスティーをごくりと喉に通らせた。
「あんた大丈夫?最近ストレスたまってるんじゃないの。」
美咲はちょっと心配そうに眉をひそめた。
私は一気飲みをして、空になったガラスのコップをテーブルに強い音をたてて置いた。
「ストレスってかねえ、…まぁストレスなんだけどさ」
「は?」
「バイト先の先輩がムカつくんだよ…」
「なんだっけ、阪野だっけ」
「うん、そいつがな」
「あー知ってるから大丈夫。話さなくてもいいよ」
美咲は私の言葉を遮って言った。
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