BE FREE,GO SOUTH

カムアウトへの反応

カムアウトに対する大半の反応は、幸か不幸か

「そんなこと、悩むことないじゃん」

という無邪気な反応で、差別をしてきた加害者の意識が全く欠落したものであった。

僕達は性的倒錯と蔑称されていたが、この国こそ本当に倒錯だらけの国じゃないか。

国民を愚弄(ぐろう)する政治家が正義を振りかざし、

社会の木鐸(ぼくたく)を標榜(ひょうぼう)するマスコミが人権侵害を平然と行い、

差別を放任し許容する人間が「悩むな」と助言する。

何て哀(かな)しい世界が僕達の周りには広がっているんだ。

少なくとも、僕の周りで「悩むことなどない」と助言する人で、

ゲイに対する差別的発言があったときに「それは、おかしい」と反論する人はいなかった。

多くの場合は、あいまいな笑いをもって追従(ついしょう)するだけで終わった。

あのプラトンだって奴隷の存在を当然視し、

ヘーゲルでさえ黒人を、マルクスでさえスラブ人を見下すという時代状況からは、決して自由ではなかった。

そもそも、僕自身がまだ自分がゲイであることをどこかで認めたくないでいるのに、

自分をこれまで通り受け入れてくれるだけでも、

感謝すべきことなのだと僕は自分に懸命に言い聞かせた。

 カムアウトしたらしたで、茨(いばら)の道が続くことに変わりはなかった。

物心ついてからずっと「オカマ」、「変態」と親族や友人に絶えず面罵(めんば)され、

誰にも相談することができなかった苦衷(くちゅう)や、

「健常者」に対する嫉妬と羨望(せんぼう)、自己否定との葛藤の歴史は、容易には人には伝わらなかった。

自分の置かれた状況をゼロから説明しなければならないことについて、ついいらだってしまい、

まずはその自分をコントロールしなければならなかった。

僕の周囲の人々は余りに幸せすぎたのだ。

しかも、僕は悩みのすべてを人にさらけ出すにはプライドが高すぎた。

そして、何よりも臆病すぎた。

自殺をより頻繁(ひんぱん)に、かつ真剣に考えるようになった。
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