BE FREE,GO SOUTH
「なあ詩音、お前はサークルで誰が好きだったんだよ。

何度もチャンスを作って橋渡ししようとしてやったのに。」

しばらく続いた沈黙がとても長く感じられ、自動車の音が静かに去来していった。

詩音は残った氷結を一気に飲み干して、

「陽一だよ」

とぶっきらぼうにいうなり、後ろから僕に抱き付いてきて、僕の耳に舌を入れてきた。

詩音の体温が舌越しに伝わってきて、思わず小さな喘(あえ)ぎ声を僕はあげると、

詩音の少し汗ばんだ手がゆっくり僕の太ももから上にあがっていった。

僕等は絡(から)み合い、濃厚なキスを何度もして、ハグしあった。

詩音のとろけるような柔らかくて温かな舌は僕の乳首を舐(な)め回した。

「入れてもいい?」

詩音のなすがままに、僕は身をゆだね、

詩音は僕の中にゆっくり優しく挿入してきた。

僕は隣の部屋に聞こえないように、初めて経験する悦楽に声を抑え、

月明かりに青白く染まった詩音の引き締まった裸体と、

かすかに涙でうるんだ詩音の双眸(そうぼう)を僕は見つめていた。

暗闇の中、僕を見つめる彼の目は、夜月をたたえた深い深い静かな湖のようだった。

屈託(くったく)の無いいつも笑顔の詩音が抱えてきた、本当の孤独を初めて垣間(かいま)見たような気がした。

僕たちは明日からまたお互い孤独だね。

大学時代はいつも当たり前のようにそばにいた詩音が、僕から離れていってしまう。

僕も切なさで、涙で目がうるんだ。

物心ついてからずっとどこかで気づいていたゲイとして自分をはじめて解放でき、受容された瞬間だった。

詩音もまた、恐らく僕と同じであったに違いない。

高校・大学とあんなに一緒にいたのに、僕の知らない強くて弱い詩音がいて、詩音の知らない僕がいた。

詩音、君はずっと僕の憧れだったんだよ。

君が僕を好きだったなんて、何であの時いってくれなかったんだ。

言葉は少なくても、詩音が僕をいとおしんでくれる。

それだけで嬉しかった。

僕等は溢れるいとおしさを、互いの体温で埋め合わせするように何度も抱きしめあったんだ。
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