紅き天
確認した静乃はゆっくりと椅子にもたれた。



「余がお前を初めて見たのは余の行列の時。
お前は綺麗な着物を着、男と連れ立っていた。
その時は幸せそうな娘だと見ていたが。」



「その後、余は酒屋に立ち寄った。
そこで麻薬を買おうとな。
ところが店の奥は血塗れで、主人は息絶えておった。
その側には…。」



先は言わなくともわかった。



その仕事は静乃も覚えていた。



あの時、どうして覆面を脱いだんだろう。



今更後悔が押し寄せてきた。



「それからお前が忘れられない。
どうにかして探そうと城下に毎夜出かけ、やっと見つけた。
照日には手伝ってもらったのだ。」



どうやって照日と知り合って、どうやって静乃容姿を伝えたかは知らないが、



「お断りします。」



静乃が言うと、驚いた家光に代わって、照日が口を開いた。



「開口一番それかい。
まったく、お前は今の状況をわかっていないねぇ。」



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