紅き天



次の朝一番、静乃は疾風の家に向かった。



疾風の家は薬屋で朝が早い。



なので、起こしてしまう事はない。



「疾風〜?」



もうのれんを上げていたので、店の入り口から入る。



予想通り、疾風がすぐに顔を出した。



「あ…。」



気まずいような、寂しいような顔をして、疾風は店の奥にある座敷に上げてくれた。



そして座った途端、静乃は頭を下げた。



「昨晩、本当にゴメンね。
母様、親バカで…。
恥かかせちゃったし、惨めだったでしょう?」



静乃が見上げると疾風は苦笑した。



「確かに、恥ずかしかった。
でも、基子さんの気持ちはわかるしな。」


「どうして?」



心底不思議だ。



どうしてムカつかないのか。



「だって、静乃が離れてくのが寂しいんだろ。」



ああ、と納得した静乃の横に座り、疾風は言った。




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