紅き天



「あれ、父様どうしたの?」



店に戻ると伝蔵と基子が開店準備もせず、険しい顔で話していた。



「静乃…。」



なにやら深刻そうだ。



基子は顔を覆い、座り込んでしまった。



「母様?」


「静乃、座りなさい。」



静乃は不穏な空気に包まれて、上がり端に腰掛けた。



「父様はこれから幕府の役人に会いに行ってくる。」


「どうして?」


「バレたのだよ。」



さっきから黙っていた基子が口を挟んだ。



「お前が出ていった直後、役人がやってきたんだ。
そしてあやつらは伝蔵に達しを渡した。」



そこには木更津当主を呼び出す旨が書いてあったそうだ。



「どうやら中央に殺し屋の事が知られたらしい。
もしかしたら私は生きて帰っては来ないかも知れない。」



静かな声で告げた伝蔵に静乃は声を失った。



「後は母様とお前で頑張ってもらうしかない。」



そう言って、伝蔵は静乃の頭を撫でた。



久し振りに頭に乗った手。



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