紅き天
「静乃、入るぞ。」
返事を待たずに入ると案の定、静乃は泣きじゃくっていた。
それはそうだろう。
宗治は優しく静乃の頭を撫でた。
もうやはり、伝蔵は話したんだな。
「静乃、俺ぁもうお前と会えなくなる。」
「ど、して…?」
嗚咽をこらえ、静乃は潤んだ目で俺を見上げた。
「ちょっとな。」
言葉を濁し、宗治はまた頭を撫でた。
「お前は本当の娘みたいだった。
それはこれからどんな事があっても変わらんぞ。」
これは俺の勝手だな。
でも、言わずにはいられない。
「じゃあな、静乃。」
「おじ様、頑張ってくださいね。
また帰ってきたら顔見に来てくださいね。」
すがるように言われ、宗治は顔を歪めた。
「出来ればな。」
もうそれからは一目散に木更津家を出、小山に向かった。
つらい。
今までで一番つらい。
実の息子と別れ、娘みたいだった子と別れ、親友の妻とも別れ、心から信頼している旧友と今から殺しあう。
宗治は涙を乱暴に拭い、足取りも荒く、死合い場所に向かった。