紅き天




翌朝、帰ってきたのは



伝蔵だった。



武器として持っていった刀を片手で引き摺り、血濡れた身体で。



基子が介抱する間、ずっと虚ろな顔をして。



どうして、こんな事を?



そう訴えているようで。



基子は一人静かに泣いた。



着替えさせ、布団に寝かせると初めて伝蔵は口を開いた。



「宗治は…やはり強かった。」


「見てわかるわ。
お前がこんな怪我をしたのを見るのは初めてじゃ。」


「私は宗治を殺した…。」


「…本望であろう。」



基子はまた流れ出てきた涙をこらえ、顔を背けた。



「苦しまずに逝かせたのだろう?」



伝蔵の首がわずかに動いた。



「あの世で笑っているだろうよ。」



結婚して初めて、伝蔵の涙を見た。



どうして、こやつが泣かねばならん?



ふつふつと沸き上がる怒り。



身体を駆け巡る哀しみ。



貴様らのような何不自由なく甘やかされて生きている人間には味わわされたくない。



のう、家光待っておれ、私が貴様の首掻き斬ってやる。



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