紅き天
「父さんは?
俺、父さんといたはずなんですけど…。」



そう言うと、基子さんは目を見開いた。



「ちょっと待て。」



着物を翻し、大急ぎで出ていった。



なんだ?



何かおかしいこと言ったか?



しばらくして、基子さんは目を伏せて戻ってきた。



「宗治はおらんだぞ。」


「そんなはずない!
父さんに担がれたんだ!」



ムキになって疾風は叫んだ。



「なら宗治は今どこにおるのだ。」



静かに、父さんの死を宣告された気がした。



でも、俺は見たんだ。



聞いたんだ、父さんの声を。



「疾風、もう一度眠りなさい。
うなされておった。」



基子さんは俺を寝かせ、額に手拭きを乗せた。




< 184 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop