紅き天



疾風が寝入ったのを確認し、基子は部屋を出た。



あれ以上疾風のうわごとを聞くのは耐えられない。



ずっと、父さんと呼んでいた。



幻覚をみたのか、宗治はまだ生きていると思っている。



それはそれで苦しかった。



「母様、父様が呼んでます。」



静乃が呼びに来て、ハッと現実に引き戻された。



「ああ、今行く。」



足早に伝蔵が寝ている寝床に入り、後ろ手に襖を閉めた。



「来たぞよ。」


「疾風は?」



訊かれると思った。



ため息をついて基子は首を振った。




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