紅き天
前に泣き崩れた戸口を通り、中に入る。
またつらい思いがよみがえってきた。
目を伏せて足早に自分の部屋に向かった。
着物などの衣服、箸、茶碗など、使う物を包む。
たいした重さにならなかった風呂敷を持って襖を閉めた。
階段を降りていくと、後ろから肩に手をかけられた。
「っあ!?」
咄嗟に投げて床に叩き落とした。
「ってぇ。」
ひらりと受け身をとった男は呻いて立ち上がった。
「佐吉さん?」
「そうだよ。
何も投げなくてもいいだろう。」
市松派の幹部、佐吉はゴツイ顔で疾風を睨む。
「すいません。」
「お前、宗治は死んだんだろ。」
仕返しか。
ぐさりと疾風の心臓を抉るような言葉を笑いを浮かべ、事もなげに言った。