紅き天



その後、疾風は何事もなかったように静乃の家に戻った。



「お帰りなさい。」



夕食の準備でパタパタと忙しそうに走っている静乃に声をかけられた。



お帰りなさい



今、一番聞きたい言葉だったのかもしれない。



だって、待っててくれる人がいないと聞けない言葉だから。



「ただいま。」



心の底からそう言った。



「上がって。
もうすぐご飯の用意が出来るから。」



静乃は疾風の手を取り、座敷に案内した。



「疾風は母様の正面ね。
私は疾風と母様の間の面に座るから。
おかわりとか遠慮なく言って。」



てきぱきと疾風の前に湯飲みを置き、茶を注ぎながら早口に説明する。



疾風は頷いて湯飲みを手で包んだ。



暑さが引いていくこの頃。



まだ冷たい麦茶が適当だった。



「じゃあもう少し待っててね。」



また忙しく去って行った。




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