紅き天
伝蔵はそんな疾風を見て、ただ静かに言った。



「覚悟はしているよ。」



そんな事を言われても、疾風はどうすればいいかわからなかった。



何かの間違いかもしれない。



悩んだ末、疾風は伝蔵の前に正座した。



「どういうことか説明してください。
伝蔵さんと父さんの事とか、裏世界の事とか、色々。」



伝蔵はそれもわかっていたように微笑んだ。



「宗治と私は親友だ。
あの通り家が斜向かいだし、年も同じだからな。
その時私達は互いの家の事など知らなかった。
お前と静乃のように隠しあって。」



そこで一旦伝蔵は息をついた。



「でも、知ってしまった…。
私達は別れたよ。
ついこの間までゆっくり話すことはなかった。」



ついこの間まで…?



確かに俺は父さんとこの人が仲良いなんて知らなかった。



「それでも、宗治の事は信用していた。
静乃を宗治に預けるにもなんの心配もなかったしな。」



クックッと喉を鳴らして伝蔵は笑った。



俺、この人がこんなに笑ったの初めて見たかもしれない。



こんな場面で見るのは悲しかった。



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