紅き天
「裏世界の事はだな…。
簡単に人を信用するな。
本当ならお前は当主にふさわしくない。
静乃に、敵方の娘に惚れてるんだからな。」



言って、伝蔵は悪戯な笑みをみせた。



成る程、父さんと気が合うわけが少しわかった気がする。



「幹部なんか当てにするな。
あいつら、隙あらば当主の座を狙ってくるぞ。
十分に力を見せつけ、恐怖で皆を支配しろ。
でなければ上手く市松派を動かせん。」


「わかった。」


「立派に当主になり、仲間を逃がせ。
こんなもの、犠牲になるのは私達だけでいい…。」



鎮痛な声で伝蔵は呻き、額を押さえた。



「疾風、私が木更津現当主だと知って驚いただろう。」


「はい。
でも納得はいきます。」



首を傾げた伝蔵に疾風は笑って言った。



「伝蔵さんは頭も切れるし優しいから。
人の上に立つには優しさも兼ね備えてなけりゃいけないと思うから。」



伝蔵は熱くなった目頭を押さえた。



本当にいい子だ。



死ぬ前に心に響く言葉を聞けて、私も幸せ者だな。




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