紅き天
馬車の振動も基子には辛いだろう。



これから街を抜け、荒野に入る。



そこを耐えられるかどうか…。



沈黙の中、基子が荒い息のもと、静乃に手を伸ばした。



目に涙を溜めながら静乃は頭を下げる。



ポタリ、と木の床板に染みが出来た。



2人は無言の言葉を交わし、静乃は小さな声で呟いた。



「ありがとう…。」



何がありがとうなのか、疾風にはわからない。



そっと見守るだけだ。



力なく基子は手を下ろし、目を閉じた。



慌てた疾風は息を確認するが、まだ息はしていた。



わかっていたように静乃は手を握っている。



親子の絆って、強いんだ。



ふと疾風はこの時思った。




< 230 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop