紅き天
疾風は白み始めた空を長い間見つめていた。



ふと、静乃の嗚咽が聞こえてきた。



まさか、と基子の口元に手を当てると、風は手に当たらない。



首筋に指を当てるも、振動しない。



愛しい人の死を認めたくなくて、何度も何度も同じ動作を繰り返す。



いきなり馬車が止まって、やっと疾風は身体を起こした。



前を見ると静乃が馬をとめていた。



「おい、何やってんだ。」



無言で静乃は基子を抱え、重そうに荷台から降ろした。



そしてなるべく地面で擦られないように背負って木を目指して歩き出した。



何をしようとしてるんだ?



疾風はただボーッと見ていた。



静乃はやっと木にたどり着くと、掘れていた穴に基子を下ろした。



やっと静乃のしたいことがみえてきた疾風はカッとなって怒鳴った。



「なんでそんなとこに埋めんだよ!
捨てるみたいなことするな!」


「ここに埋める。」



思っていたよりしっかりとした声が返ってきて疾風はややたじろいだ。



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