紅き天
「頼むから、そんな事言うな。
俺が自害する。」


「そっちこそそんな事言わないで。
疾風がいないなんて嫌だ。」


「俺だって。
お前、死んでこの世からいなくなるよりタチが悪いこと言ってるんだぞ、わかってるのか?」



静乃は返す言葉に詰まり、俯いた。



「ゴメン。」


「理屈はわかるがな。」



言って疾風は静乃を抱き締めた。



「悪い、限界。」



何が?



そう聞き返す前に口付けられた。



「こんなに会えない日が続いた後にこんな喧嘩なんかして、しかもその後可愛くしおれられたら我慢の限界じゃねーか。」


「知らない、そんなこと。」



少し恥ずかしくて、不意を突かれたのが悔しくて。



静乃は口を尖らせた。



「とにかく、俺も当主の責任があるから感情に流されて派閥全員皆殺しなんで出来ない。
だから最悪の場合はお前の案を実行する。
だからそれまでは頼むから止めてくれ。
お前といたい。」



甘い言葉にクラクラだ。



静乃は赤くなって頷いた。



まったく、疾風は口がうまいんだから。










馬車はなんとか昼前までには二人の家に着いた。




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